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その都市伝説を殺せ 第一章

web小説・その都市伝説を殺せ 第一章

その都市伝説を殺せ・リンク

第一章 第二章 第三章

 

□あらすじ

 

 主人公・藤村和義は、突如霊能に目覚めた。
 幼馴染みの渡瀬早紀や親友の篠原一馬に導かれ、彼は現実世界とは違う[異界]に足を踏入れていく。

 街に溢れ返る噂や、超自然を作り出す人々の念、目を背けてきた過去の記憶が集約され、黒い化け物が生まれてしまう。
 今、その化け物『その都市伝説を殺せ』が、少年の魂に手を伸ばそうとしていた…。

 

 バトル系の少年漫画や、ライトノベルを意識して書きました。この作品は小説投稿サイトに掲載されているものと、全く同じ内容です。

 

 

 

その都市伝説を殺せ 

 

 

 

□一話

 

 変化は、突然訪れた。
眠気を誘う陽光の下、授業を受けていた生徒達の誰もが、(このまま何も考えずに眠ってしまえれば、どれほど幸せだろうか)と思っていた。
 この春に高校生となった藤村和義もその中の一人で、夢と現実との狭間を行き来しながら、瞼にかかる重圧と戦っている。その閉じ掛かった視界の端に何かを捉えても、最初の内は感情が動かなかった。だが、その[何か]が迫りくるにつれて、段々と意識を向け始める。

  三階にある教室のベランダすれすれを、全長四メートルほどの[鳥のようなもの]が飛んでいた。その顔はどことなく人と似ているが、大きな嘴を付けており、鋭い牙の先を覗かせる。また、殺傷力の高そうな太い爪が両足の末端から伸びて、爬虫類のような尾を持っていた。

 怪鳥の頭が自身の真横に着いた時、彼はようやく覚醒した。そして、当然のように横切っていく化け物を、ポカンとした顔で見つめしまう。数秒後、慌てて前の席の生徒に呼びかけた。
「おい、外見みろ!! おい!!」
 話しかけられた男子生徒が、怪訝な表情を浮かべながら後ろを向く。それから気怠げに窓の外を確認すると、和義の方を見返して「何?」と言ったきり黙り込んだ。
 二人は、周囲から多くの視線を感じ取った。それらを遡っていけば、同じ数の無表情な顔に行き着く。窓の外にはまだ巨大な尻尾があり、和義達を視界に入れているのなら、異常に気づかない筈がない。
 生徒達が次々と黒板へ向き直る中、教師は場の空気を乱した教え子に訓戒を垂れると、何事も無かったかの様に授業を再開した。
 和義は、もう一度窓の外を確かめてみる。しかしガラスの向こうには、見慣れた風景があるだけだった。
 釈然としないまま授業に意識を戻そうとするが、今度は教壇のすぐ側に[白い靄のようなもの]を見つけた。それを凝視している間に、靄は扉を開けずに廊下へ通り抜けていく。
 彼は、現状を把握しようと努めたが、うまく考えが纏まらずに困り果ててしまう。
(さっきの化け物達が、また出てきたらどうするんだ)
 そう思うと、居ても立っても居られなくなり、早退することにした。

 

 学校から離れれば助かると決めつけて、勢いよく昇降口を飛び出す。そんな彼を待ち受けていたのは、街中に溢れ返る化け物達だった。

 

 

□二話

 

 一夜明けて、和義は目を覚ました。いつも通りの起床時刻に、いつも通りの自室の光景。視界の範囲内に、非現実的な要素はどこにも無い。
(昨日の出来事は、全部夢だったんじゃ…)
 こう思いながらカーテンを開けてみるが、希望的な考えは直ぐさま打ち砕かれた。二階の窓から見渡した近所近辺に、幾つもの人魂が彷徨っていたからだ。

 

 彼は、異界と化した街並みを眺めながら、(化け物達が見えなくなるか、撃退方法が分かるまで外出を控えよう)と心に決めた。

 

 ところが人魂達は、屋内にも平然と侵入してくる。慌てふためいて、昨夜の内にネットで調べた悪霊退治の方法を試すが、何の効果もあらわれなかった。
 いつもなら家を出る時間が近づいてきて、苦慮する。結局は、狭い家の中で震えているよりも、広くて人の多い校舎内にいた方が安全だと判断した。
 「何か起こったら、電話してくれ」と母親に言い捨てて、彼は玄関の扉を開いた。

 

 人気のある場所に向かおうとしていた和義は、隣の家から妙な気配を感じ取った。余計なものは見まいと咄嗟に顔を伏せるが、目の端に[子供のようなもの]を捉えてしまう。
 幼児に似たそれが、縁側で車の玩具をいじっていた。
 和義は、気づいていない振りをするものの、周囲を包み込む異様な雰囲気に当てられてしまい、自身の態度から緊張の色を消せなかった。
 不意に、子供が顔を上げた。そしてゆっくりと、和義がいる方向に顔を動かしていく。
(急に俯いたのは、わざとらしかったか)
 背中に強い視線を感じたまま、彼は足早に通り過ぎようとする。
 老夫婦が二人暮らしをしている筈の家は、いつしかお化け屋敷に変貌していた。

 

 

□三話

 

 玄関の扉を開けた瞬間、和義は離れた場所にいる化け物や人間の大まかな位置を、無意識の内に捉えていた。遮蔽物の向こう側にいる存在までも、何となく感じ取れる。
 だが、得体の知れない能力に突如目覚めたことで、一層混乱してしまった。
(俺には予想もつかない、何か恐ろしい事が起こっているんじゃ…)
 現況を把握できないために生まれた不安感が、更に強まっていく。

 

 再開発されている駅周辺に近づくほど、人の気配は増えていった。会社員や中高生、散歩中の老人を多く見かける。
 平然とした人々に囲まれると、緊張感が少し和らいだ。肺に押し込んでいた空気を吐き出し、さりげなく辺りを一瞥すれば、そこかしこにいる異形の存在が目に映る。化け物の内訳は人魂が圧倒的に多く、それ以外の種類はごく僅かだった。
 しかし、幾ら人の数が増えても事態は好転しない。
(やっぱり、俺以外の人間には見えていないのか)
 人魂が当たり前のように老人の体を通り抜けていき、小うるさい女子高生達の足下を、子供の幽霊らしき存在が我が者顔で歩いていく。過去の日常と、現在の非日常がすれ違っていた。
 人々の涼しげな顔を見ていると、彼の胸の内に怒りと嫉妬が芽生えた。(何で俺だけが、こんな目に)と、やり切れない気持ちになってしまうのだ。
 彼は、混沌とした周囲の状況を暫く観察した。
(何だか、夢でも見てるみたいだな)
 次第に現実感が薄れていき、どういう態度を取ったらいいのかも分からなくなってくる。

 

 化け物達は、害意を持っていない様にも見えた。
(思ったほど、危険は無いのかも)
 彼は、安心するための理由探しを始めた。だが一時的な逃避は長く続かず、恐怖がぶり返してくる。
 前日から危害を加えられてはいない。とはいえ、何を考えているのか分からない人外相手に、平和的な対応を期待できる筈もなかった。
 彼がまたパニックに陥ろうとした時、後から声をかけられた。
「どしたの、お前」
 いつの間にか、同級生の大倉達也が背後に立っている。達也は、人魂を捉えた視線に気がつき、「お前、化け物が見えんの?」と尋ねた。

 

□四話

 

「サボればいいじゃん。しかも、隣の家にいた化け物って山田さんだろ? ビビリ過ぎ」
 二人は、学校の校舎裏に移動していた。この場所は特別教室のすぐ側なので、一時限目が始まる前は閑寂としており、化け物云々という話をしやすい。
 和義が深刻な顔付きで事情を伝えると、達也は笑い出した。その動きに合わせて、明るく脱色された茶髪が僅かに揺れる。
 和義は急に恥ずかしくなり、(もしかして俺は、過敏に反応していたのか?)と思いつつ、何とか言葉を絞り出す。
「訳分からん状況に、いきなり放り込まれたんだから、仕方ないだろ…」
「それにしたって、お前…」
 達也は、急に黙り込んで俯くと、虚空を見上げてプルプルと震えだした。仕舞には、「あ、あぁっ! 化け物が! た、たすけてぇ!」と情けない悲鳴を上げる。
 自分の真似を大袈裟にしていると気づいた和義は、
情けなさを誤魔化すために、にやけた達也の腹を小突いた。
「そこまで、ビビってなかっただろうが」
 だが、和義も段々とおかしくなってきて、笑い出してしまう。いつしか、達也の顔に浮かんだ笑みの種類が変化していた。
(もしかして、気を使ってくれたのかな)
 和義は、校舎の壁にもたれ掛かったまま腰を落す。同じく犬走りの上に座り込んだ達也が、落ち着きを払ってこう言った。
「まぁ、すぐ慣れるって。俺もそうだったし」
 「そうか」と短く返事をして、和義は何となく空を仰いだ。そのまま、隣に座った少年のことを考える。

 

 去年の春、当時和義が通っていた中学校に、達也が転校してきた。まだ知り合って間もない頃、和義は達也にあまり良い印象を持っていなかった。ざっくばらんで明るい性格をしているが、無遠慮なところが煩わしい人間だと思っていたのだ。
 しかし、数週間も学校生活を共にする内に、多くの意外な側面を知ることとなる。 
 達也は、集団に混じると悪乗りしてしまう事もあるが、時に迎合しない芯の強さを見せた。彼の行動や態度からは、繊細さと図太さや、優しさと冷たさなど、両義性が窺えた。
 和義は、とらえどころのない奴だと思い始め、達也の姿を何となしに目で追うようになる。
 それでも必要最小限の会話しかしない時期が続いたが、ある切っ掛けから少しずつ話をする様になると、彼らは大した時間を掛けずに、爾汝の交わりとなった。

 

 控え目だが気持ちのいい日差しが、辺りに降り注ぐ。暫くの間、二人は黙って空を見上げていた。 
 不可思議な世界の事情に通じている友人と運良く出会えたので、大きな安心感を得たのだろう。和義は、心中にあった雨雲の様な不安が、段々と晴れていく事に気づいた。
 しかし疑問は山ほどあり、何から尋ねたらいいものかと考え込んでしまう。一方達也も、どこから説明しようかと悩んでいた。
 やがて、予鈴のチャイムが鳴り始める。
「いろいろ訊きたいだろうが、話せば長くなりそうだ。放課後にしてくんね?」
 相手が同意したのを見ると、達也は校舎に向かった。ところが歩きだして直ぐに振り返り、思い出したように口を開く。
「あ、でも早紀ちゃんが説明すると思うわ。やっぱ俺じゃなくて、あのこに訊いて」
 淡泊な調子でそう言うと、その場を後にした。「投げやがったな」と呟き、和義も腰を上げる。
 繊細な気遣いが出来る少年は、唐突にそれを止める図太さも持ち合わせていた。

 

 

□五話

 

 和義は授業が始まっても、超自然の世界について思いを巡らした。しかし情報不足から、思考はすぐさま袋小路に入ってしまう。程なくして、彼が過ごしてきた日々の中に、手がかりを求め始めた。
 彼も昔は、オカルトの類を信じていた。というよりも保育園児の時分には、非現実的な存在が見えていたのだ。ごく自然に様々な化け物達と触れ合い、大人には見えない子供としょっちゅう遊んでいた。
 そういった思い出は、子供特有の記憶の改ざんか何かだと、彼は長らく考えてきた。
 だが、霊能を得た今となっては、実際に化け物を見ていた可能性が高いと思っている。一度失い、その後回復した理由を考えてみるも、思考は再び袋小路に入ってしまった。
 授業そっちのけで、悶々と物思いに耽る。不意に、(自分のオカルト嫌いと、何か関係があるのでは?)と思いついた。
 オカルト嫌いになった原因を意識する寸前、それを何とか止めようとしたが、今回の事態と関連している可能性を捨てきれず、迷いが生じてしまう。そうして逡巡する間に、思い出したくもない過去の出来事が、次々と脳裏に浮かび上がってきた。

 

 

□六話

 

 8ヶ月ほど前に、和義の親友だった篠原一馬が殺された。
 犯人達は、下校中の一馬に因縁をつけて、現金を奪おうとした。だが強く抵抗をされたため、人気のない河川敷に連れ出し集団で暴行する。脳挫傷が直接の死因となり、遺体は数キロ離れた山中に遺棄された。
 未成年だった主犯格のAが、事件の三週間後に自首する。取り調べ中にAは、「時間が経ったら怖くなった」と供述した。
 Aと共に暴行した未成年の少年は、他に二人いた。それらBとCは、検察官送致後に強盗殺人と死体遺棄の罪で起訴され、公判は未だに続いている。
 唯一の成人であったDも暴行に加わり、車を運転して遺体を運んだ。強盗致死と死体遺棄の罪に問われて、Dには懲役十二年の判決が言い渡された。
 「何となく、態度が気に入らなかった」という遣り切れない犯行の動機や、遺族の焦燥した顔などの記憶を、和義はつい昨日の事のように思い出してしまう。

 

 のどかと言っていい街で起こった凶悪事件。捜査の進捗状況を、地元住民は固唾を飲んで見守った。
 そんな彼らの周囲には、影のように纏わり付く噂が絶えず存在した。噂は形を換え、街の有りと有らゆる場所で増殖していく事となる。
 この事件は、マスコミに連日取り上げられたため、大きな関心を呼ぶ。その結果、噂が飛び交う学校の教室で、井戸端会議に花を咲かせる住宅街の一角で、どんな[ネタ]をも欲しがるネット上で、強迫的と言っていいほど話題にされた。
 どんな形であれ人との繋がりを求める者達の、いい[ネタ]になったのだ。それは、顕示欲を満たすための手段でもあり、憂さ晴らしをするための手軽な標的でもあり、暇つぶしのための娯楽でもあった。
 事件発生から幾らもしない内に、[のどかな街]の中高生達が、被害者と加害者の人となりや個人情報をネットに流し始めた。
 一馬の同級生だったという匿名の人物が、詳細な情報をSNSで公開し、多くの同級生や元同級生がその後に続いた。一部の保護者や教師達まで彼らに追随していた事が、後に判明する。
 そこからは凄まじい早さで、[ネタ]がSNSや動画サイト、匿名掲示板に伝播していく。
 かくして、事実と不実がネット上にばら撒かれていった。
 とはいえ、事件の情報に鮮度が無くなると関心も薄れていき、狂乱めいたお祭りは一時下火となった。

 

 ところがある時期を境にして、事件への関心が再び高まっていく。
 主犯格のAが、就寝中に心不全で死亡したのだ。その直後から、こんな怪談が囁かれ始めた。

 

「被害者の怨念が、犯人を祟り殺した」

 

 [ネタ]が怪談に形を変えて、再び人々の前に姿を現したのだ。
 その怪談は、匿名掲示板の書き込みから生まれた。「未来視をした時に、犯人が死ぬ光景を見た」というものだ。当初、予知の書き込みは殆ど誰にも相手にされず、数人に嘲笑されるだけの反響しか起こらなかった。
 犯人が逮捕される前は、荒唐無稽な予想や予知を披露して、衆目を集めようとする者達が多くいた。その内の一つが、犯人の死亡をたまたま当ててしまったのだ。
 この書き込みは神格化されていく。大抵の人間は只の偶然だろうと思っていたが、ごく一部の人間が真に受けてしまった。事件への関心が再燃するにつれて、その[ごく一部]の人間もどんどん増えていった。
 事件にまつわる噂話の殆どが、事実を脚色したものだった。有り得そうだと思われる改変もされて、人から人へ受け渡ししやすい形式になっていく。そういった多くの噂話の中で、怨念が殺したという現実味のない怪談は、異彩を放っていた。

 

 被害者や遺族への誹謗中傷を煽るような噂も、数多くあった。むこの犯罪被害者を叩くために多大な労力を割く人間は、世の中に掃いて捨てるほどいる。
 不謹慎だと憤ったり自重する者も多いが、流言飛語を楽しむ輩も一定数存在する。一馬が通っていた中学校ですら、はばかる事なく流言を口にする者達がいた。
 そんな人物を見つけると、和義は激しく攻撃した。教師や友人達も、最初の内は彼に同情していたが、感情的な態度が一向に収まらないのを知ると、徐々に距離を取っていった。
 周囲とのトラブルが絶えず、両親や友人に心配と迷惑をかける。彼は、そんな日々を送っていたが、次第に家族が参っていったため、自制せざるを得なくなった。
 数ヶ月経っても、不謹慎な噂を聞くことがある。
そのような場面に出くわしても、周囲に掛ける負担を思うと、当たり散らす事が出来なくなっていた。

 だが彼は今、こう思っている。(死後の世界があるのなら、あの怪談を一概に否定出来なくなったのでは)、と。

 

 

□七話

 

 数学の授業が終わり、十分間の短い休憩となった。数学教師の指導は、学習に支障がでるほど厳しい。何の意味もなく厳しいのだ。激しく厳しい。
 苦痛を伴う授業から解放されたために、教室内にはどこか弛緩した空気が漂っている。ただし、新たな苦痛に備えるための緊張感も存在した。次の英語の授業も、激しく厳しい教師の担当だ。とはいえ、休み時間はまだ始まったばかりなので、緊張感よりも弛緩した空気の方が勝っていた。
 和義が何となしに携帯をいじっていると、近くの席に座っていた女子達が噂話をし出した。何でも、復讐サイトに依頼すれば、法が裁けない悪人を裁いてくれるというのだ。そのサイトの請負人は、犯罪被害者の遺族だという。未成年だったため実刑をまのがれた仇の少年に制裁を加えた後、他の未成年犯罪者への報復も請け負うようになったらしい。
 和義には知る由もないが、この都市伝説は一馬が怨霊になる怪談から派生したものだった。一馬の怨霊が闇サイトの請負人となって、様々なヴァリエーションを生み出しながら流行していたのだ。
 「怨霊が、恨んでいる人間を祟り殺す」等という怪談を、歯牙にもかけない人間は多い。「怨霊なんてものは、科学的合理主義に反する」と考えているのだ。
 そんな彼らの中にも、復讐サイトの都市伝説なら信じてしまう者がいる。「絶対に有り得ない」とは言い切れないためだ。
 また、信頼している人物に教えてもらったり、不幸な出来事に遭った直後で情緒不安定となっている場合など、幾つかの条件が重なれば信じやすくなる。よく考えてみれば怪しい「友達の友達」が情報の出所にも拘わらず、人々の心の中に都市伝説は生きていた。
 女子達がする話は一層胡散臭い方向へ進み、怪談の範疇に属したものとなる。呪いがどうこうと言い出して、狐が復讐を担うようになった。挙げ句の果てには、化け物に殺された人間が怨霊となって、報復する怪談話を始める。
 和義は、小馬鹿にしながら耳を傾けていたが、すぐに態度を改めた。今となっては、化け狐に襲われる可能性もあるのだ。
 彼は、ふと思う。見える見えないに拘わらず、化け物がこの街に元々存在していたのならば、自分は常に危険な状態にあったのでは、と。
 ともあれ、非科学的な存在・現象を全く信じてこなかった人間が、たったの一日でそれら全てを受け入れられる筈もない。例え目の前に、人魂が漂っていてもだ。
 化け物を否定してきた自分と、肯定しつつある自分の間で、彼の心は揺れていた。

 

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